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テニスの王子様のことが大好きです。

手塚の覚悟、跡部の責任

個人的に「ミュージカル『テニスの王子様』青学VS氷帝」に置いてS1を読む鍵となるのは校内ランキング戦後に手塚によって歌われる「油断せずに行こう」というナンバーだと思っている。

 

1stSでは「油断せずに行こう」無印が

 

・校内ランキング戦後

 

・「それぞれの思い」に続けて

 

・「一騎打ち」

 

と三度歌われる。

 

2ndSでは校内ランキング戦の後に歌われる「油断せずに行こう」が「油断せずに行こう2011」として同様のタイトルながらメロディや歌詞を一新し、これから始まる手塚VS跡部戦を示唆するような内容になっている。

 

 

 

 

 

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「油断せずに行こう2011」の特徴としては、

 

・なぜ油断してはいけないのか

 

・油断をするとどうなるか

 

・S1の試合内容を強く示唆

 

これら3点が主に上げられる。

 

 

 

これと「油断せずに行こう2016」を比較すると、

 

 

 

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「油断せずに行こう2016」の特徴としては、

 

・油断しないとはどういうことか(消極的方法論ではなく積極的方法論に)

 

・Aメロにて乾VS桃城を強く示唆(手塚VS乾も少し)

 

・一方S1を暗示するワードが半減(Bメロに散見されるのみ)

 

 

 

ここで二つの「油断せずに行こう2xxx」を比較すると、浮き上がるフレーズが出てくる。

 

それが「少しの迷いが敗北への扉へつながる」というフレーズだ。

 

手塚は何を迷う可能性があったのか?

 

対して跡部は何を迷ってしまったのか?

 

この二点に着目して3rdS青学VS氷帝S1を読む。

 

 

 

まず、敗北という概念についてだが、これは個人の勝ち星ではなく、「この試合に負ければもうこの大会では戦えない」とM1「All for tennis(仮)」で青学レギュラー陣が歌い上げること、そして大石が怪我をしたときも「俺を引退させるなよ」と団体戦敗退阻止を指していることから、団体戦の勝敗を指すものであるとする。

 

 

 

手塚が跡部戦において選択を迫られることといえば、言わずもがな「自分の腕」と「青学の勝利」を跡部に天秤に掛けられた時である。

 

跡部は名実ともに手塚の失墜を狙い、ゲームメイクをする。

 

「30分もあれば誰にだって勝てる」と自称する跡部が得意技の破滅への輪舞曲を封印してまで持久戦へ持ち込んだ真意は、手塚の肩を壊すことにはない。

 

仲間から信頼され、何よりもチームの勝利を願ってやまない手塚が自分のテニス人生のために青学を捨てる姿をメンバーに見せることで、闘争心を冷やし、青学というチームを敗北へ導こうとしているのだ。

 

氷帝はこの手塚戦を制したとしても、現時点では1勝2敗1ノーゲーム、つまり勝ち星としては団体戦の勝利条件を満たさない。次の補欠戦が団体戦の勝敗を分けることを十分理解していたと考えられる。

 

これはつまり跡部は一人で2勝してくるつもりだということ。自分が手塚に勝つことは勿論として、日吉がリョーマに勝てるように、青学というチームの「熱い心も闘争心も氷で冷やす」つもりだった。氷帝が勝つ道はそれしかなかったが、跡部はなんでもないことのように、平然とやってのけようとしてる。

 

 

 

跡部氷帝の勝利のために、青学の柱である手塚を跪かせ、チームの闘争心そのものを凍てつかせようとしたのである。

 

しかし手塚は、その選択を迫られても少しも迷わない。

 

テニスが大好きなくせに、テニスが全てなくせに、全てをテニスに捧げているくせに、手塚にとっては、今の自分にとって青学の勝利こそが「自分のテニスのすべて」であると覚悟を決め、ラリーを続けるのだ。

 

 

 

一方跡部にとっては、それは大きく計算外であった。

 

まさか自分のテニス生命と、プロ入りさえ考えられる程の実力を持っている手塚にとってはただの通過点であると思われる中学校の関東大会団体戦の一試合を天秤に掛けても、砂粒ほども迷わないことが。

 

 

 

ここで歌い上げられるのが「一騎打ち」である。「油断せずに行こう」無印と、1stS氷帝校歌に当たる「氷のエンペラー」の二重唱だ。

 

 

 

 

 

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手塚は一貫して「油断せずに行こう」と歌い上げる。対して跡部は自分を鼓舞するかのような、勝利と引き換えに手塚のテニス生命を奪うことを迷っている自分に、当初の目的を思い出させ、言い聞かせるような「氷のエンペラー」を。

 

熱の籠った二重唱を歌い上げた後、跡部は序盤で封印していた破滅への輪舞曲を打とうとする。この戦法は跡部が迷っていると決定付ける描写だ。「焦って攻めてこいよ手塚」と挑発した跡部が、勝ちを急き先程打たなかったスマッシュを叩きつける。焦って攻め急いだのは皮肉にも跡部自身となったのだ。

 

しかしそれも手塚の執念によって阻まれる。グリップに当たるはずだった二段スマッシュの一段目は手塚のラケットの面へ、打ち返されたボールをがら空きの右サイドへ打ち込むも、手塚ゾーンによって手塚のもとへ…。

 

試合時間は伸びて行く。手塚の腕はとっくに限界を超えている、あと一球だ…と大和部長との過去描写が入り、ついにその瞬間が訪れる。

 

 

 

その瞬間、三浦宏規演じる跡部景吾は、2、3歩手塚の方へと歩み寄るのだ。

 

この表現のなんと見事なことかと思う。絶対的頂点である跡部の迷い、揺らぎ、絶望…そしてもう一度立ち上がるその姿まで、我々に提示させるスポットライトが当たらない中での些細な動作であると言える。

 

 

 

跡部はその後、チームメイトに囁かれる。

 

「さすが跡部じゃん、狙ってたんだろあれを」

 

「土壇場で大逆転やな」

 

「でも跡部の奴、ちっとも嬉しそうじゃねえ」

 

氷帝メンバーは跡部の真意を理解しない。それもそのはずである。氷帝の頂点はただ一人、誰も手の届かないところに在るのだから。

 

跡部の孤独は跡部が自ら選んだものだ。氷帝メンバーが悪いわけでは決してない。ただ、氷帝の頂点はひとつしかない、それだけなのだ。

 

跡部は200人の頂点に立つ代わりに孤独となった。皆が跡部に跪き、跡部を崇め、跡部を奉る代わりに跡部の考えを理解し、諫め、共に歩んでくれる仲間はいない。これが跡部の選んだ道だ。だから跡部はベンチで一言も発さない。氷帝メンバーも跡部に声はかけられない。

 

 

 

跡部はたった一人で、200人を背負ってもう一度コートへ向かうのだった。

 

 

 

この時点で跡部には大きな責任が生じる。この試合に勝たなければならないという責任だ。

 

手塚が肩を抑えた瞬間跡部は手塚のもとへ駆け寄ろうとしたが、それは決して許されない。

 

跡部が手塚の肩を壊したのは、自分のエゴであるのだから。

 

ここで跡部が手塚に謝罪するのは容易いことだ。手を抜いて手塚に勝利させるのも同様である。ただ、そうあっては手塚は一体何のために怪我をしたというのか。

 

跡部にはこの試合、勝利する責任が生じたのだ。

 

ただそれが険しい道であることは言うまでもない。強敵手塚の、怪我してもなお尚冴えるリターン、アプローチ、ドロップショット。しかし肩が上がらずサーブの威力が落ちた手塚に跡部は言う。

 

「なんだ手塚、このサーブは!」

 

跡部はここで腹をくくったのだろうと感じた。ここからの跡部は、有名な長台詞に置ける、微塵も「油断」をしない、「最高の力を込め」た、純粋なラリーを始めるのだった。

 

 

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跡部は「最高の力を一球一球に込めよう このタイブレークがどれ程続いたとしても!!」と独白を締めくくるが、それはまさに「油断せずに行こう2016」の体現なのであった。

 

 

 

跡部はベンチを振り返らない。たった一人で、手塚に挑み、タイブレークカウント36-35、跡部リードのラリー中手塚のラケットヘッドが3.2ミリ下がる。

 

これ気が付いてるんだよね、跡部は。3.2ミリを測った乾、跡部、零式ドロップを受けたことがあるリョーマが1ページに描かれているのだから。

 

跡部は打球が戻ってしまうことを予期しながらも、ボールを拾いに飛び込んでいく。

 

結果として零式ドロップは回転数が足りずにバウンドし、手塚コートへ返るもその後のバックハンドがネットにかかり、ゲームセットとなるのであった。

 

 

 

200人の部員を率いて居ながら、一人きりで責任を果たした跡部

 

才能に満ち溢れながらも自分の人生を賭してまで覚悟を決めて戦い抜いた手塚。

 

二人の試合を伝説と呼ぶには、この夏が続く限り早すぎる。

 

 

 

この重厚且つ鬼気迫る揺らぎの試合を演じ切る財木くんが、三浦くんが、各校メンバーがなんと見事なことかと思うのです。

 

演出の構成も本当に見事!

 

「氷のエンペラー」を、跡部跡部に歌うなんてかっこよすぎる!

 

 

 

新発見としては、

 

・迷わない手塚と迷いながら成長する跡部

 

・「一騎打ち」における「氷のエンペラー」歌詞部分は跡部跡部自身に歌っている(氷のエンペラー=氷帝学園を示している訳ではないのでは?)

 

・手塚には覚悟があった、跡部は責任を果たした、それぞれの戦いっぷりがとにかく見事

 

ということなんですけど、なんかもう最高すぎて最高しか言えないんです!

 

2ndSの関氷は、手塚と違って跡部がどうしようもなく一人だってことを憂いて、苦しんで、悲しんで、しくしくめそめそ泣いていたんだけど、そこから一歩踏み出させてくれた3rdS関東氷帝公演に感謝します。

 

跡部が紛れもなく自分自身で選んで作り上げてきた氷帝の体制を勝手に可哀想なものにするな!! って2ndSの自分をぐーで100回殴りたい。

 

この夏が本当に最高なんですよ!!

 

テニミュは進化しちゃうから「油断せずに行こう2016」はこの夏しか聞けない!!

 

どうかどうか劇場まで足をお運びください、跡部大好きメス猫からのお願いです。

 

氷帝公演、括目せよ!!